研究概要 |
筋細胞の興奮収縮連関は、2種類の筋細胞内膜系(横行小管:T管、筋小胞体:SR)とカルシウム(Ca^<2+>)チャンネルによって、時・空間的に極めて緻密にコントロールされている生理機構である。本研究では、骨格筋細胞が極度に疲労した状態のモデルを作成して筋細胞内膜系を電子顕微鏡により観察し、筋疲労に伴う興奮収縮連関の機能不全と筋細胞内膜系の形態変化の関連性について検討した。実験動物には、生後10週齢のWistar系雄性ラットを用い、Ringer液中にて長指伸筋(EDL)から筋束(筋線維数10〜20本程度)を摘出した。EDLより摘出した筋束は全て速筋線維であり、SOLより摘出した筋束は全て遅筋線維により構成されていたことを確認して分析に供した。激しい運動により疲労した骨格筋細胞においては、細胞内乳酸濃度が10mM以上に達することが報告されている。本研究では、異なる濃度(1,10,25mM)の乳酸をRinger液中に溶解して乳酸処理溶液を作成した。乳酸の濃度と処理時間の組み合わせを変えることにより、様々な実験条件を設定した。乳酸溶液処理によりT管幅が減少する傾向が観察された。この形態変化は可逆性の変化であり、筋束を乳酸処理溶液からRinger液中に戻すことによってT管幅の回復が観察された。速筋線維においてT管幅は乳酸濃度に依存して有意に減少した。一方、遅筋線維においても同様の傾向が観察されたが、T管幅の変化の程度は速筋線維に比較して小さく、有意な変化は認められなかった。今回用いた乳酸処理溶液の浸透圧とT管幅の変化については、両タイプの筋線維共に特異的な関係は認められなかった。乳酸溶液処理に伴ってT管の形態変化が観察されたことから、T管の形態は筋疲労に伴って変化する可能性が示唆された。乳酸蓄積に伴うT管の形態変化と興奮収縮連関の機能不全との関係については今後の検討課題である。
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