研究概要 |
セルロースの水素結合を特殊な方法で開裂させることにより、セルロースを水酸化ナトリウム水溶液に可溶化することに著者らは成功した。これにより世界で初めてセルロース成型体を食品領域に展開できるようになった。このセルロース成形体の食材展開を目的に検討を重ね次の結果を得た。 1.分子動力学計算(MD計算)で,セルロース/水酸化ナトリウム水溶液からのセルロース構造形成メカニズムを解明した。構造形成の初期構造に相当する構造モデルを,コンピュータ内に設置し,その安定性や構造モデルの再編成を観察し,今までの実験結果とあわせて,構造形成機構を解明した。周辺物質が水の場合,疎水性相互結合で形成された分子シートが最も安定なことがわかった。これは,水に接するグルコースリングの疎水性平面が減少することになり,熱力学的に合理的な結果といえる。 2.この結果を踏まえ,セルロースと食用多糖との複合体の検討をおこなった(セルロース単独では食感が悪く実質的に食べられない)。多糖とセルロースをブレンドすると極めて多孔質な構造体が得られ,これは保水性や保油性が極めて大きかった。これに加え,得られた複合体は,熱水中でも安定でかつ食感的に良好なものであり,既存の可食性多糖にない特長を出すことが出来た。超微粒化セルロース(ノンカロリー油脂代替食品)については,課題であった食後残余感が,セルロースの非晶化により解消することがわかり,その調製法を確立した。 3.食品中の発がん性物質TRP(ヘテロサイクリックアミン)の複合体への吸着はセルロース結晶面の表面エネルギーに依存する可能性を見出した。また多くの人工着色料がこの複合体に吸着されることも見出した。 4.応用展開として,特定構造の複合体を小麦に対し30%添加した低カロリーパンと,複合体からなるカロリーゼロのノンカロリーパンを得た。これらは産業界と共同で事業化を検討中である。
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