これまでの研究を通して、私たちは、コミュニケーションは、単なる情報の伝達ではなく、互いの思考を活性化させる意味のある連鎖として継続することが重要だと考えるようになってきた。そして、コミュニケーションの連鎖は、従来から考えられている活動の連続性という視点だけではなく、コミュニケーションに参画している学習者間の思考の連続性が重要であり、さらには、他者からの刺激を受け入れることによって変容する学習者個人の思考の連続性を維持することも重要だと考えるようになってきた。平成17年度の研究では、活動の連続性、学習者間の思考の連続性、学習者個人の思考の連続性という3つの視点を、コミュニケーション連鎖を捉えるための視点とし、あわせて、聴児の事例分析によって示されてきた、協応連鎖、共鳴連鎖、超越連鎖、創発連鎖の4つの類型論を基礎理論として、このモデルを聴覚障害児のモデルへと精緻化することに精力を集中してきた。 また、今年度は、これまで中心的に考察してきた認知的な側面に対する考察に加え、新しいアイデアが創発されるコミュニケーション連鎖に参画している学習者の情意的な思考プロセスの分析を行うための基礎モデルの構築にも着手した。情意モデルの構築のために、私たちは、数学の問題解決過程における情意の問題に取り組み、「数学的問題解決における生徒の情動的な経験に関する研究」で、2001年に筑波大学より博士(教育学)の学位を授与されたMaitree Inprasitha博士(タイ国コンケン大学数学教育学研究センター所長、同大学助教授)に研究協力を求め、私たちの認知モデルと同博士の情意モデルとを結びつける可能性について、17年度の後半より研究協議を重ねている。
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