研究課題/領域番号 |
17310016
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
環境動態解析
|
研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
齊藤 宏明 独立行政法人水産総合研究センター, 東北区水産研究所混合域海洋環境部, 室長 (30371793)
|
研究分担者 |
桑田 晃 独立行政法人水産総合研究センター, 東北区水産研究所混合域海洋環境部, 主任研究員 (40371794)
太田 尚志 石巻専修大学, 理工学部, 講師 (20364416)
武田 重信 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 准教授 (20334328)
|
研究期間 (年度) |
2005 – 2007
|
キーワード | 従属栄養性渦鞭毛虫 / 珪藻 / 糞粒 / 炭素循環 / 生物ポンプ / プランクトン / 亜寒帯 |
研究概要 |
生物活動による炭素の海洋表層から深層への輸送機能、すなわち生物ポンプを駆動する生物として、植物プランクトンの珪藻が重要な働きをしている。珪藻が沈降するか、他の生物に捕食され糞粒として沈降するか、もしくは表層で分解するかによって、炭素の深層への輸送量は大きく変化する。そのため、珪藻の沈降と共に珪藻の捕食者として優占するカイアシ類等大型の動物プランクトンの捕食に関する多くの研究がなされてきた。一方、珪藻を捕食する従属栄養性渦鞭毛虫に関する知見は限られており、その炭素輸送機構へ及ぼす影響については不明であった。 本研究では亜寒帯太平洋において、従属栄養性渦鞭毛虫の珪藻捕食とその炭素輸送機構に関する役割を明らかにするための、現場観測、培養実験、数値モデル実験を行った。 珪藻を捕食する従属栄養性渦鞭毛虫としては、Gyrodinium sp.の他、少なくとも4種類のGyrodinium属、Gymnodinium属の渦鞭毛虫が確認された。これらが微小動物プランクトンに占める割合は一般的に低く、珪藻の多い親潮域においても出現が見られない点が多かった。しかしながら、珪藻の大増殖(ブルーム)が見られた点では、それに応じた増加がみられ、親潮域では微小動物プランクトン細胞数の20%、生物量、炭素量の60%に達した。また、亜寒帯循環中央部の点では、微小動物プランクトンの10%程度だった生物量が、ブルームに応じて50%(20.1mgCm^<-3>)にまで増加した。これらのことは、従属栄養性渦鞭毛虫が、珪藻の増殖に応じて増加するという、餌料生物密度に依存した動態特性を持つことを示している。希釈実験法による珪藻群集へ与える摂餌圧は、従属栄養性渦鞭毛虫の密度によって決定されるが、最大摂餌量は、532mgCm^<-3>d^<-1>であった。 炭素輸送に及ぼす従属栄養性渦鞭毛虫の役割を明らかにするために、数値モデルを用いた解析をおこなった。亜寒帯循環中央部においては、珪藻ブルームの後にその生産のほとんどを捕食し、無機化する能力を持つことが示された。しかしながら、炭素輸送に及ぼす重要性は、初期細胞密度および捕食者の存在によって変化する。すなわち、珪藻ブルームは1-4週間程度の期間に亘って見られる現象であるが、初期細胞密度が低すぎるか、従属栄養性渦鞭毛虫に対する捕食圧が高いと、珪藻ブルームに影響するほどには増殖できない。カイアシ類の増殖のタイミングが珪藻ブルーム開始のタイミングより早く、カイアシ類の生物量が十分高い場合、珪藻ブルーム発生前に従属栄養性渦鞭毛虫が選択的に捕食され、細胞密度が著しく低下することが示唆された。これらの結果は、春季の珪藻、栄養塩および炭素の動態が、ブルーム発生前の従属栄養性渦鞭毛虫、カイアシ類等生態系構成生物の密度によって大きく影響されることを示す。 本研究により、いままで知られていなかった従属栄養性渦鞭毛虫の生態や炭素・生元素循環に及ぼす影響を明らかにしたが、その分布の不均一性、限られた期間にのみ増加する生物学的特性のため、その生態学的、生物地球学的役割については不明な点が多い。特に従属栄養性渦鞭毛虫が果す役割を一般的な生態系モデルで再現することには多くの困難がある。そのためにも、生理学的、生物学的な知見の蓄積がなお必要である。
|