研究概要 |
近年、有明海北東部において水産業上重要種であるタイラギ貝が夏場に大量斃死を起こすようになり大きな問題になっている。本課題では沿岸に生息し、様々な影響を最も受けやすい二枚貝に着目して、その急性影響を貝リンガルで、また中・長期的影響を貝の糖代謝物のプロファイル(貝メタボローム)で評価し、生態系の評価・監視・回復を目指すものである。 平成19年度は、タイラギを、1日6時間、貧酸素海水(溶存酸素0.5mg/L以下)に7回暴露し、貧酸素暴露前と暴露後におけるタイラギの底面から殻先端までの高さ(浮上高)を毎日測定した。また、貧酸素暴露後に閉殻筋を採取して保存した。得られた閉殻筋について、呼吸代謝物濃度(リンゴ酸,ピルビン酸,コハク酸,乳酸,フマル酸)はHPLCで、グリコーゲン含量はアンスロン法で測定した。タイラギを貧酸素海水に7回暴露した結果、リンゴ酸の濃度が減少した(p<0.05)。タイラギは貧酸素条件になると浮上し、好気条件になると沈み込む行動を繰り返したが、貧酸素暴露7回目で浮上高が低下した。3次元分散分析の結果、浮上高には暴露期間、貧酸素暴露回数、底質の因子が有意に作用していた。 一方、1990年代より西日本沿岸域に出現するようになった二枚貝を殺す渦鞭毛藻、Heterocapsa circularisquamaをアサリに暴露し、その殻体運動に及ぼす影響を貝リンガルにより測定した。アサリは2007年の1月から4月にかけて東京湾より採取し1から2週間馴致したものを用いた。その結果、5細胞/ml以上のH.circularisquama暴露により殻開閉運動の頻度が顕著に増加し、500細胞/mlで開殻時間が有意に減少することが明らかとなった。
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