研究概要 |
本研究の目的は、複数の殺虫剤への曝露を受けた場合のリスク評価を念頭に、ヒト職域集団およびモデル動物で、尿中代謝物量と健康影響の量反応関係を明らかにすることである。有機リン殺虫剤の代謝物であるジアルキルリン酸(DAP)及びピレスロイド系殺虫剤の代謝物3-フェノキシ安息香酸(3-PBA)の高感度測定系を確立し、殺虫剤散布職域において曝露レベルを明らかにした。DAPについては、職域において、尿中の8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)濃度と正の相関を示した。代謝酵素であるパラオキソナーゼ1(PON1)遺伝子多型Q(グルタミン)/Q、Q/R(アルギニン)、R/Rに関して、多型と白血球及び尿中8-OHdG濃度との関連は認められなかったが、夏期の尿中DAP濃度はQアレルが減少するにつれて有意に減少した。3-PBAに関して、散布者と散布職域の非散布者との間に冬にのみ有意差を認めた。動物モデルによる実験では、9週齢のWistar系雄ラットにジクロルボス(DDVP)0,5,10mg/kg、ダイアジノン(DZN)3mg/kgを週6日9週間経口投与した。DZN群で精子運動性が有意に低下し、60分後の精子アデノシン3リン酸/アデノシン2リン酸比がDDVP10mg/kg投与群で有意に低下した。精子の形態学的指標として、尾部の短い精子がDZN群,DDVP10mg/kg群で増加し、精子運動性とともに尿中DAP濃度に有意に回帰した。cis-ペルメトリン0,35,70mg/kgをICRマウスに42日間経口投与した実験では、精子数及び精子運動性は量反応的に減少し、精巣及び血漿中のテストステロン量は減少した。精巣ライディッヒ細胞のミトコンドリア膜の障害により、テストステロン生合成が阻害されていると考えられた。ヒトでの結果とあわせ、代謝物測定による殺虫剤の混合曝露評価を今後進める必要性が示された。
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