研究概要 |
低線量放射線の被曝線量と発がんリスクを評価するために,放射線高感受性マウスの開発とゲノム障害・修復蛋白質を利用した分子バイオドシメトリーの開発を行った。 1.エイムス試験の原理による放射線に高感度なマウスモニター系の開発 放射線に高感度なマウスを開発する為に,誤りがちな修復をする損傷乗り越えDNA合成遺伝子mRev1を過剰発現したトランスジェニックマウス(Rev1マウス)を作成した。プロモターには,遺伝子発現の制御が可能なメタロチオネインプロモーターを用いた。各臓器でユビキタスなRev1発現を認めたマウスを用いて表現型解析を行った。T細胞を用いた放射線誘発のTCR突然変異頻度は,対照群に比べ高い傾向を認めた。化学発癌剤MNUによるリンパ腫の誘発では,対照群に比べ有意にリンパ腫発生頻度が上昇し,変異原に対し発がん高感受性マウスであることが確認された。 2.低線量放射線の分子バイオドシメトリー法の開発 分子バイオドシメトリー法の開発を目指し,二重鎖切断部位で定量的にドットとして蛍光染色出来る蛋白質としてヒストンH2AXに注目し,H2AX蛋白質複合体の精製と機能解析を行った。HeLa培養細胞にクローニングしたマウスH2AXをレトロウイルスを用いて導入し,安定形質株を樹立した。この細胞株より核分画を調整し,H2AX複合体を精製した。今年度は,損傷後ヒストンH2AXに結合する蛋白質を網羅的にMS解析した。その結果、ヒストンH2AXは損傷依存的にTIP60ヒストンアセチル化酵素に結合し,損傷に伴いアセチル化されることが判明した。このアセチル化は、TIP60ノックダウン細胞では抑制されることからTIP60ヒストンアセチル化酵素が損傷依存的にヒストンH2AXのアセチル化を制御していることが示された。この様にH2AXは,損傷初期にアセチル化され,H2AX複合体の動態を制御することが示された。この様な損傷初期におけるH2AXの生化学的特徴を利用し分子バイオドシメトリー法の開発を進める。
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