研究概要 |
はじめに 合成香料による環境汚染は、約25年前に日本で確認・報告されたが、それ以降とくに注目されることなく現在に至っている。従って、合成香料の場合、化学汚染を理解するための基礎情報である「汚染現状」・「生物濃縮の態様」・「経年変動」に関する知見は皆無に等しい。そこで本研究は、沿岸域の生物を対象に分析を行い、合成香料による汚染現状と生物濃縮の態様を理解することを目的とした。さらに、日本近海の海生哺乳類を分析して香料汚染の経年変動の把握を試みた。 試料と方法 2005年、有明海の干潟域より、貝類、腕足類、甲殻類、多毛類、魚類を採集した。また、1977年以降に日本近海で採集された海生哺乳類(スナメリ・スジイルカ)40検体を分析に供した。本研究では、5種類の合成香料(HHCB,AHTN,MA,MK,MX)を測定対象とし、試料はソックスレー抽出を行った後、ゲル濾過カラム、シリカゲルカラムでそれぞれクリーンアップして、GC-MSDによる定性・定量を行った。 結果と考察 分析を行った大部分の沿岸生物から環状型香料のHHCBが検出された。とくに、低次生物である貝類に1,000ng/g(脂肪重当たり)を超えるHHCBの蓄積が認められ、この値は甲殻類・魚類・海生哺乳類より高かった。このことは、低次生物は代謝分解能力が低く合成香料を蓄積しやすい可能性を示している。 1977年〜2005年に日本近海で採取された海生哺乳類を分析したところ、HHCB濃度は1990年を境に顕著に増加していた。このことは、日本におけるHHCBの製造・輸入量が1990年前後から増加したこと、さらに、HHCBを含む香粧品の輸入量が増えた可能性を示唆している。 合成香料の製造・使用に関する規制がないことから、今後も汚染が拡大する可能性が高い。継続的なモニタリングと汚染源の特定、さらにヒトや野生生物へのリスク評価の研究を行う必要がある。
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