研究課題
はじめに生態系の汚染と深刻な影響が懸念される人工化学物質には、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDTに代表される有機塩素化合物や多環芳香族炭化水素(PAHs)などの「従来型」と、最近環境中から初めて検出され、その汚染の存在が明らかになった「新規型」の二種類に大別できる。前者は、1970年代以降の環境対策が功を奏し、その汚染規模は縮小傾向にあるが、後者は環境中の濃度が1990年代以降上昇し続けており、合成香料はその代表的な存在といえる。本研究費の補助により、これまでに合成香料のHHCB,AHTNによる「生物濃縮の態様」・「経年変動」・「地球規模の移動拡散性」を明らかにしてきた、今年度は日本を含むアジア産二枚貝を用いて、アジア域の合成香料による汚染現状についてモニタリング調査を行った。試料と方法2005年4月〜11月にかけて、北海道・本州・四国・九州・沖縄沿岸の60地点よりカキ試料を採集した。また、1998年から2005年に韓国・中国・香港・フィリピン・ベトナム・カンボジア・マレーシア・インドネシア・インドより採集したイガイ(二枚貝)試料についても化学分析を行った。アジア産二枚貝は、愛媛大学沿岸環境科学研究センターにある環境試料バンクの冷凍保存試料を利用した。合成香料の分析法は既報に従った。結果と考察分析の結果、日本のほぼ全ての地点のカキからHHCBとAHTNが検出された。HHCB,AHTNの平均濃度は数100ppb(脂肪重当たり)で、大阪湾や東京湾など大都市沿岸の検体に顕著な汚染が認められた。また、一部の試料からmusk ketoneも検出され、日本でのニトロ香料の使用が示唆された。また、アジア産イガイの場合、日本と同様に主としてHHCBが検出された。試料中のHHCB濃度は、香港・フィリピン・韓国で高値を示し、とくに香港のイガイからは8ppm(脂肪重当たり)を超える重度の汚染が確認された。一方、カンボジア・ベトナム・インドの香料汚染は概ね小規模で、人工香料の使用量が国や地域間で異なっている様子が窺えた。ただし、同じ国内でも試料間で1桁以上の濃度差が見られる場合もあり、こうした違いは試料の採集地点と周辺の排水処理施設との距離や、各自治体の汚水処理方法の違いが関係していると思われた。
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Environmental Science and Technology 41
ページ: 2216-2222
環境浄化技術(解説) 5月号(印刷中)
Analytical Science 22
ページ: 899-901
Environmental Science and Technology 40
ページ: 4916-4921