本研究課題の目的は主に単層カーボンナノチューブを用い、(1)注入キャリアを制御できるように状態密度を操作しつつその状態を安定に作り出すこと、(2)その状態で偏極スピンを単層カーボンナノチューブ中に注入しその集団運動を観測・制御することにある。 昨年度までに(1)の注入キャリア制御、は完全に達成し、また(2)では偏極スピンの単層カーボンナノチューブ中へのスピン注入については達成した。今年度は(1)についてはこの発展版として、極性制御を行った単層カーボンナノチューブをチャネル層に用いたトランジスタを組み合わせた論理回路の作製を達成し、NOT回路におけるgainとして19.1という分子系でもっとも高い値を得ることができた。(2)に関しては再現性を確認することに苦労しているのが実情であり、いろいろと工夫を行っているが確度の高い結果を得るまでには至っていない。しかしながらこの困難の背景の学理として分子スピンバルブにおけるconductance mismatch問題の重要性を十分に明らかにすることができ、またカーボンナノチューブにおけるキャリア制御による伝導性の制御が重要であることもモデル計算などから明らかにすることができた。
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