研究概要 |
本研究では,砂の堆積現象が最も広範囲に現われた869年貞観仙台沖地震津波による堆積物運搬の様式を粒度組成及び堆積相から類推し,津波による流れの水理学的実体を理解するための初期条件を求める堆積学的検討を行った。また,静岡県南伊豆町入間において東海地震津波によって形成された丘陵状の集積土砂堆積物も研究対象とし,堆積物運搬過程の検討を行った。申請設備備品であるレーザー回折式流度分析装置による粒子組成解析結果からは,貞観津波堆積層を構成する砂層の明瞭な陸側細粒化現象が検出された。この現象は堆積物の移動と集積を試行する水槽実験装置の再現結果と調和しており,堆積層の細粒化様式が溯上津波のエネルギー散逸を反映する重要な基準として扱い得る可能性が示されるとともに,水理学的結果と堆積作用の理解から,我が国において特に顕著な災害を及ぼした貞観地震津波・東海地震津波による破局的な流れの堆積学的作用が明らかにされた。この基準は,海岸とその後背平野の成り立ちを理論的に理解する自然地理的条件を与え,更に海岸平野に於ける都市・産業基盤整備に不可欠の知識を与えるものと期待される。また,タイ南西部海域において採取した堆積物試料を用いて古生物学的解析を行い,津波前後での底生有孔虫群集の変化を明らかにするとともに,引き波によって生じた混濁流が海底に津波の痕跡を残しうることを示した。したがって,海域における堆積物掘削により,津波発生の履歴を知ることが出来る。平成19年7月にイタリア・Perugiaで開催されたIUGG総会において,これらの結果を津波災害と堆積現象の実例として紹介し,注目を集めた。
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