カバの汗は皮膚上に分泌された時点では無色であるが、数分で赤く色づき、数時間で茶色に変色してしまう。この赤い色の原因はヒポスドール酸および、ノルヒポスドール酸であり、それぞれ、赤色、オレンジ色の不安定な色素であることがわかっている。これらの色素が不安定な理由を解明するためには、色素を供給できることが必用であるため、色素の合成法の開発を行った。 フルオレン骨格を合成するために、2つのベンゼン誘導体を出発物質とし、アリールリチウムをアリールアルデヒドに付加をさせ、生成したアルコールを酸化してベンゾフェノン誘導体とした。次に、このオルト位同志のカップリングにはPschorr反応を用い、フルオレノン骨格を形成した。この基本骨格に対して、増炭反応、酸化段階の調製を行って、上記色素の前駆体となるビスヒドロキノン誘導体を合成した。これを酸化して天然物へと導くわけだが、天然物は非常に不安定であり、濃縮、非プロトン性有機溶媒に触れる、吸着性のゲルに触れる等の操作により重合してしまう。そこで、素早く反応を行い、薄い溶液にした上で精製することが必用であった。酸化剤としては塩化鉄(III)を用い、グリセロールと水の混合溶媒中で反応を行ったところ、目的物が得られたが、収率は10%程度であった。グリセロールは溶液の粘性を増し、拡散が遅くなることを期待して用いた。種々の検討の後に、より温和な条件として、酸化の触媒として硫酸銅を用い、空気存在下で反応を行うと、収率も35%程度まで向上した。また、赤色色素の酸化過程でオレンジ色色素が副生することがわかった。この副生成物の割合は溶媒として用いた緩衝液のpHに依存することもわかった。
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