本課題研究の最終年度となる本年度は、イスラーム・ガラスと日本ガラスの双方の総括ができるように資料を整備すると同時に、国内外各地で資料調査を行った。 イスラーム・ガラスに関しては、真道が中心になり、エジプトのラーヤ遺跡から出土した8〜11世紀のガラスの詳細な検討を行った。とくに、報告書作成のために、研究協力者の協力を得て遺物の化学分析および実測図作成、写真撮影などの作業に重点を置いた。この結果、イスラーム・ガラスの化学組成の変容、様式の変化などを明らかにすることができた。さらに、ラーヤ遺跡出土品の年代的な位置づけを確認するために、早稲田大学が所蔵する7〜14世紀のフスタート遺跡出土ガラスとラーヤ遺跡出土ガラスを比較し、イスラーム・ガラス全体の編年研究を進めた。 日本のガラスに関しては、長崎、仙台城などの出土ガラスの調査を行い、近世におけるヨーロッパから日本へのガラスの流入を示す考古学的出土品を実地調査した。同時に日本各地で発見されているガラス資料の情報収集を行った。さらに、文献史料からの研究として、井上がケンブリッジ大学の図書館にて日本の近世および近代のガラス製造に関する古文書の史料調査を行った。この結果、新資料と新事実が明らかとなり、その一部を、日本ガラス工芸学会誌に発表した。 ガラス器が日常生活の中に深く広く浸透していたイスラーム世界と、焼物の文化が中心でガラス器が舶来品としての特別な位置を占めていた日本では、明らかにその用いられ方が異なっていた。ガラスを通じて両文化を比較することで、異なる文化の諸相を明らかとすることができた。
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