まず6月に市川がカールスルーエ大学を訪れ、海外研究協力者のクノップ、ルケージー両氏に会い、綿密な打ち合わせを行った。クノップ教授から指摘のあった教育劇と音楽の関係についても、日独双方で研究を進めることとした。平成18年度に「ブレヒトの詩と音楽」、19年度に「ブレヒトの演劇と音楽」というタイトルで、日本でシンポジウムを行い、これに両者が参加することを確認した。クノップは教育劇の研究を進めている。 8月から9月初旬にかけて市川はベルリンのブレヒト文書館に通い、若きブレヒトの抒情詩に付けられた楽譜に目を通した。ほとんどが未公刊であり、一つの詩に複数の楽譜が存在するものも多くある。ヴィツィスラ館長の好意もあり、重要なものはコピーさせていただき、そのほかのものも筆写した。現在『家庭用説教集』を中心に論文の作成にかかっている。 9月初旬に、ブレヒトの共同作業者であり、作曲家のクルト・シュヴェーン氏を市川とルケージーが訪問し、インタビューを行った。教育劇『ホラティ人とクリアティア人』のソングやブレヒトの詩につけた曲について、また生前のブレヒトについて貴重な話を聞くことができた。成果はルケージーの名前で、"Dreigroschenheft"に発表された。 市川と大田はヴァイル、アイスラー、デッサウなどの楽譜をどのように収集するのかを相談し、作業に取り掛かった。大田はヴァイル、アイスラーの全集などの楽譜を購入し、ブレヒト・ソングとキャバレー・ソングの歴史的展開に関する基礎的な文献の整理に携わった。大田はこれをもとにヴァイルを中心に研究を進めている。9月に市川はフランンクフルトのズーアカンプ出版社を訪れ、イェスケ、ドレッシャー両氏と会談、資料提供の協力を求めた。 市川は独自に自らの翻訳によるブレヒトの『セチュアンの善人』(大阪)と『ゴビ砂漠殺人事件』(原題:『例外と原則』、徳島)の上演の準備を進め、『セチュアン』に挿入されたデッサウのソングの日本語訳を試みた。現在ブレヒト劇のソングの歌詞の翻訳に取り掛かっている。 市川は自らが編者となり、『世紀を超えるブレヒト』を出版、またドイツの出版社から共著者として"Befremdendes Lachen"の出版に協力した。 市川とルケージーは2006年にデッサウ市で行なわれたクルト・ヴァイル祭典に参加し、研究者との交流や資料収集、観劇やコンサート鑑賞を行った。ルケージーは『マハゴニー』に関する講演を行い、市川はMDRテレビに出演し、ヴァイルとブレヒトの関係について語った。 市川とルケージーは今後2年間の研究について再度論議し、シンポジウムの中身について確認した。
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