平成19年度は、平成17・18年度に行った画像研究支援ツール・イパレットネクサスを使用しての本文デジタル画像から切り出した平仮名印字データを整理、分析し、印刷技術・出版メディアと平仮名字体の変容との関係について総合的に考察した。 (1)研究代表者(鈴木)は、主に古活字版の印字データをもとに、以下の諸点を明らかにした。 (1)嵯峨本『伊勢物語』慶長13年再刊本の印字標本集を作成した。また、印字使用延べ数、活字種の数を明らかにするとともに、慶長13年初刊本の活字から襲用されたもの七割近くを占め、新彫の活字は三割程度にとどまること等を明らかにすることで、再刊本は新彫活字を主としているとする従来の通説を訂正した。 (2)論文「古活字版のタイポグラフィ」、著書(共著)『文字のデザイン、書体のフシギ』を執筆し、これらのなかで平仮名を活字に載せることの問題点を、連綿を旨とする文字の性質から論じた。また、多くの平仮名交り文の古活字版は活字規格の制約によって文字が均質化・画一化していく傾向にあるのに対して、嵯峨本のみが連綿仮名の自由闊達さを再現し得ていることを明らかにした。 (2)研究分担者(矢田)は、整版書体分析用の機能を追加したプログラムを用いて、近世整版本の前期と後期における平仮名字体、書体の変化の様相を比較分析した。その結果、後期の整版本には、字型の均一化、フォント化(定型化)、筆勢の消去が著しいことが明らかになった。この成果を論文「近世整版本における平仮名字形の変化」、「かな字母とその変遷」にまとめた。 (3)上記の成果をもとに、研究論文と嵯峨本『伊勢物語』慶長13年再刊本印字標本集から成る研究成果報告書を作成した。
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