脱酸素化ヘモグロビン(deOxyHb)と酸素化ヘモグロビン(OxyHb)のパラメータを用いた早期信号を検討した研究は日本にはない。2005年度の近赤外分光法(NIRS)を用いた研究では、脱酸素化ヘモグロビンと酸素化ヘモグロビンの変化による言語発話時に関連する成分が、40ミリ秒(25Hz)のサンプリング時間で両半球に生じるのかを検証した。被験者はコンピュータ画面に現れる文章を音読する課題を、音響的遅延フィードバック(DAF)ないし自然な音響的フィードバック(NAF)の2条件下でそれぞれ行なった。行動テストの結果、DAF条件は、[s]音素を文頭に用いた文と[k]音素を文頭に用いた文の両方で、NAF条件よりも文持続時間が統計的に長かった。差分法により、[k]音素タイプとは異なり、[s]音素タイプでは、次の2つの発話成分が母音持続時間の違いにより、検出された。第一子音開始時間から約160ミリ秒にdeOxyHb成分が、長音化開始時間から約100ミリ秒にOxyHb成分が検出された。 2006年度に行なわれたNIRS研究では、deOxyHb成分とOxyHb成分が言語発話中に、両半球でサンプリング時間を25ミリ秒(40Hz)で記録した場合に検出されるか、という研究課題に取り組んだ。被験者は、コンピュータ画面に現れる名詞句を音読した。[s]音素を文頭に用いた文と[k]音素を文頭に用いた文において、母音長が短い場合と長い場合の2種類がそれぞれ使用された。差分法の結果、[s]音素タイプにおいて、母音の長音化現象により両半球で顕著なOxyHb言語産出成分が見つかり、この結果は[k]音素タイプにおいては検出されなかった。OxyHb成分のピークは、第一子音開始時間から約125ミリ秒であった。また、OxyHb成分のdeOxyHb成分は第一子音開始時間から約175msのピークであった。 これらの2年間のNIRS脳実験結果は、早期の両半球での活動が毛細血管で記録され、NIRS測定は音素タイプによって酸素交換パターンが異なってくるという点が明確になり、サンプリング時間を25ミリ秒とした場合でも測定可能であることが示された。
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