研究概要 |
本年度は,研究代表者・分担者がそれぞれ次のような研究を行った。 研究代表者・山根は,前年度より取り組んでいる明治初期の権力者・大久保利通の空間的経験と認識についての研究を進める一方,明治中期以降の公権力の空間認識を知るために『帝国議会議事速記録』の分析に着手した。各々,資料量が膨大なため,研究は次年度も継続する。このほか,夏季にドイツで開催された国際学会に出席し,明治期の空間認識が当時発行された書誌に如何に表現されたかを分析した研究を報告した。また,本研究に関連して購入した洋書文献等を基に,地理学と人間開発に関する論文を執筆した。 研究分担者については,次の通りである。中西は前年度に続き,農業政策担当者の空間認識を解明するため,北海道・東北地方(福島・岩手)等で文献調査・関連資料収集を進めた。北海道開拓に関する黒田清隆関係資料の分析に着手し,開拓使官員のメンバー構成を検討した。また,安積開拓に関する文献検討を行った。岡島は,近代期の重要なインフラストラクチャーである内陸水運や運河の空間的な整備に関する政府政策の変遷を,太政官布告等の資料分析を通じて跡付ける作業を行った。河野は,地方公権力の具体的な空間認識像を解明するため,前年度に続き山形県庄内の本間家・風間家,長野県小諸の小山家の各関係資料を収集し,近代期の地方有力者の地方政治への関わりや事業展開等の動向を分析した。川崎は,地方銀行の金融活動への公権力の関与の仕組みを解明するために,『日本金融史資料明治大正編』の分析に着手した。また産業組合についても同様の目的で,長野県上田において旧町村資料の所在調査を行った。天野は,エネルギー政策者の空間認識を解明するため,明治〜戦前期の約50年間刊行された『電氣之友』誌を分析した。この資料の内容は膨大であるが,国立国会図書館蔵書を基にしたマイクロフィルム資料が利用可能であり引き続き分析を進める。また,通信政策者の空間認識解明を目的に,逓信総合博物館所蔵『郵便線路図』を用い,沖縄県における郵便線路の展開・変遷を分析した。この結果を日本地理教育学会(8月)で報告し,論文として発表した。また,研究協力者の品田光春(日本大学・非常勤)も,公権力による鉱業空間に対する認識を解明する研究を進めた。 こうした各人の研究経過・成果を持ち寄り,研究の進捗状況を確認するため,2007年1月に東京で合同報告会を開催した。各人の研究外のさまざまな環境変化によって今年度の研究全体の進捗はやや遅滞することとなったが,次年度は各人の研究成果を広く問うために,学会での合同報告会・シンポジウムの開催を目指している。
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