日本人はリスク回避的であると言われているが、ハイリスクな領域でのイノベーションに成功しているケースが最近多く報告されている。価値観の基となる制度は、人間の行動を規制すると同時に、数々の補完的関係から、弱点をカバーする働きもあり、リスクを低減させ、それを取る行動を助長すると考える。この研究は、ナノ、バイオ、半導体産業において、企業家のリスク認識、制度、企業間関係等における補完的メカニズムを調べ、リスクを取る行動を助長する技術革新リスク・ガヴァナンス構造を包括的に解明しようとするものである。 企業家のリスク認識と企業組織の関係を分析し、次の四つの補完的モデルを統計的に抽出した。(1)内部ビジネス統括モデルでは、(1a)家族所有と低リスク・ビジネスを増やし、余剰能力で研究開発をする。又は、(1b)親企業の所有、統括、資金的援助を増やし、高リスク・ビジネスに集中する。両者の場合、リスク認識は高くならない。(2)研究開発リスク型は、研究開発予算を増やすことにより、高いリスクを取るが、市場への到達を早め、これが自信過剰やリスク認識の低下をもたらす。(3)ベンチャー資本(VC)リスク型は、VC企業を使い資本的なリスクを回避するが、VCが短期的な資本回収を試みるため、リスク認識が高くなる。(4)IPO型は、市場で資本調達をすると、リスク状況を統制する傾向が高くなる。しかし、実際は収益が向上せず、VC企業への依存を継続せざるを得なくなる。(1)と(2)のモデルが効率の良いリスク・ヘッジングとなり、技術革新や起業を促すが、その可能性は限られている。やはり(3)を利用せざるを得ないのが実情である。まだ、分析途中であるが、(1)と(2)には、いろいろな企業間関係が存在しており、日本の既存システムが補完的な構造を作っていると考える。よって、日本の技術革新と起業の原動力と効率性を理解するのに重要で、示唆に富んだ結果が出て来ている。
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