本研究では、特に最寄り品を扱う業種を中心として、昨今大規模化の傾向が見られる流通業者において蓄積される製造業者・卸業者に対するパワーは、他のチャネルメンバーではなく、消費者の幾つかの行動を通して形成されるという仮説を、マーケティングサイエンスのアプローチを用いて定量的に分析するものである。本年度は大別して2つの研究成果が得られた。 まず流通チャネルに関する消費者心理を探るためにアンケート調査を実施した。具体的には、パワー関係や消費者志向性の知覚が製品カテゴリーによってどのように異なるのか、流通業者問の価格イメージが小売業態によってどのように異なるのか、小売業者の品揃えの知覚、認知集合、考慮集合の関係が製品カテゴリーによってどのように異なるのかを測定した。分析の結果、生鮮食料品など生産者の顔が見えにくい製品カテゴリーではメーカーよりも小売業者の評価が高くなるのに対し、メーカーが意識されるゲーム機や化粧品では小売業者よりもメーカーの評価が高くなること、小売業者間の価格類似度はコンビニエンス・ストア、デパート、総合スーパーで高く、食品スーパーとディスカウント店で低いこと、品揃えを多く感じる消費者は認知集合も考慮集合も大きいことなどが明らかとなった。また第2の課題として、前年度に地域別の卸-小売間の取引価格を取り上げ、価格の卸集中度に対する弾力性を計測する計量分析を行い、規模の大きな小売業態ではこの弾力性は小さいことを明らかにしたが、今年度はこれを説明するマーケティングサイエンスモデルをゲーム理論を援用することにより構築した。またさらに、同一のデータセットを用い、これに追加する形で、個別品目の小売業におけるマージン率の計測を行った。結果として、消費者のロイヤルティが高いと推測されるブランドほど、単品当たりでは小売店はマークアップを多くは得ていないことが実証的に明らかとなった。また卸売段階での集中度の増大が、小売マージンを圧迫しているなどの実証結果が得られたが、これは上流の卸による小売業への垂直的な影響を示唆しており、こうした実証結果を説明するモデルを構築することは次年度の課題として引き継がれる。 以上の研究と、それに関連する成果は、研究発表の項目に記載しているとおり、いくつかの出版物に収録されている。
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