今年度の研究活動としては、「否定表明」と「関係的自律」に関する文献レヴューを行い、それに基づいて調査質問紙を作成した。ひとつは「異性関係調査」の質問紙であり、Strausら作成したConflict tacticsスケールの検討からはじめ、「否定表明」に関する若年世代への調査質問紙として全体の再構成を行った。もうひとつは高齢者を対象とした「社会的サポート関係調査」の質問紙であり、社会サービスへの苦情・不満の表明項目を中心として調査質問紙を構成した。この2つの調査質問紙はそれぞれに独立した項目をもつが、親密な関係における自律性をとらえる項目と、「否定表明」に関する項目についての共通部分をもち、比較可能なものとなっている。若年者調査は2大学における大学生504名(男213名、女291名)から自記法による回答を得た。高齢者調査はk市内居住の在宅高齢者56名(男15名、女41名)から訪問面接法による回答を得た。これら2つの調査は次年度に行う本調査のパイロットスタディとして行ったものであり、現在調査結果の分析過程にある。 若年者調査の結果をみると、人間関係一般については自律的な「否定表明」が必要であることを認める一方で、親密な関係においては「これまで意見の違いは生じていない」、「意見の違いがあっても話題を変えてしまう」、「意見の違いがあっても、何もしないであいまいになる」といった「否定表明」のない「穏やかな関係」をつくる傾向が認められる。高齢者調査の結果と比較すると、若年者の方が「人間同士は分かり合えない」、「こえられない溝がある」とする傾向が強く、親密な関係形成に影響を与えている。 高齢者調査においては、社会福祉サービス利用について、「感謝している」といった「肯定表明」と同時に、不満があるといった「否定表明」を回答したものが約半数みられ、この背景に親密な関係の形成があると推測された。
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