研究概要 |
本年度は,年度初頭の予定にあった4つのプロジェクト,すなわち「名詞-動詞」プロジェクト,「移動動詞」プロジェクト,「固有名詞」プロジェクト,「オノマトペ」プロジェクトを進めてきた. 「名詞-動詞」プロジェクトでは,日本語児で名詞や動詞など語彙の学習しやすさに影響する要因についてこれまで行ってきた研究の報告の最初のものが公刊された.また,この問題を言語比較で検討するために,日本語児,英語児,中国語児のデータを収集し,結果を学会で発表した.子どもにとって動詞の学習は言語普遍的に難しく,しかし子どもたちがその学習において手がかりにしているものは,言語によって少しずつ異なることが明らかになった. 「移動動詞」プロジェクトは,移動事象のどの部分を動詞が引き受けるかに関して世界の言語はいくつかのタイプに分けられるという指摘に触発されて開始された.そして,動詞が移動の様態を表現することが多い英語と,移動の経路を表現することが多い日本語で,子どもたちは移動動詞が何を指すかについて言語のタイプに応じた期待を持つようになるか,なるとすればそれはいつからかを明らかにすべく,Temple大学やDelaware大学の研究者と協力して,英語と日本語のデータを収集してきた.結果として,当初予想されたような言語の影響はあまり見られず,どの言語でも,初めのうちは動詞の意味として,移動の経路と様態のいずれにより注目するかに関してあまり偏りがなかったものが,子どもの語彙が増えるにつれて,移動の様態への注目が強まっていくことが見いだされた. 「固有名詞」の獲得に関しては,これまでの研究で,2歳半より上の年齢の日本の子どもは,どのようなモノに固有名詞がつきそうかという知識を使い,初めて耳にした語がカテゴリー名なのか固有名詞なのかを見分けることができることがわかっていた.そこで,「固有名詞」プロジェクトでは,このような知識を子どもはいつから使えるようになるのかを明らかにするために,より低年齢の子どもでの検討を行ってきた.そのための方法としてIPL (intermodal preferential looking)法を採用し実験を行ってきた.しかし現在,この方法は敏感ではないという指摘が,この研究領域の多くの研究者からなされるようになっており,方法,ひいてはプロジェクトそのものについて見直しが必要になってきている. 「オノマトペ」プロジェクトでは,乳児を対象とした実験を行うための足固めとして,幼児やおとなを対象に,日本語,英語,中国語などで,予備的なデータを収集してきた.初めてきいた動詞を即座に動作に対応づけることは難しいとされてきた年齢の子どもでも,それらしいオノマトペで言われると動作に注目しやすいこと,などが見いだされてきた.
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