研究課題
基盤研究(B)
子どもは母語の語彙を獲得していくにあたり、言語普遍的にヒトに備わっている能力をベースにしながら、母語が要求する概念化のしかたを身につけていかなければならない。この言語普遍的な概念化の能力とはどのようなもので、個別言語の構造的特徴にどのように影響されながら、語彙獲得を実現しているのか。本研究はこの問題を明らかにするため、言語間の比較や、日本語がほかの言語と異なる点に注目した研究を行い、以下のような知見を得た。1)英語に比べて日本語や中国語において、動詞は出現頻度が高く、文の最後の目立つ位置に来る。そのため、日本語や中国語を母語とする子どもは、より早期からより容易に動詞の学習を進めていると考えられてきた。しかし実際に調べてみると、日英中どの言語圏でも、子どもたちがスムーズに動詞の意味を推論できるようになる時期は、名詞の場合よりかなり遅かった。このように動詞の学習には、上で述べたような言語構造の違いより、そもそも語の意味として動詞概念(関係や動作)を抽出するのは言語普遍的に難しいことが大きく影響しているようだった。2)日本語では固有名詞と普通名詞を文法的に区別しないが、日本の子どもも30か月になれば、名前のわかっている動物を指して言われた新しい語はカテゴリー名ではなく固有名詞と見なす。しかし26か月児にはまだそのような区別はできない。このように日本語を母語とする子どもが固有名詞をカテゴリー名と区別してスムーズに学習できるようになる時期は、英語圏では20か月児が文法的区別を手がかりに固有名詞と普通名詞を適切に学習しているというのに比べると遅い。これは、固有名詞を普通名詞と文法的に区別しない日本語の言語構造の影響と考えられる。3)日本語には、ドンドン/トントンのように有声性において対比される擬音語ペアが少なからず存在し、このうち有声音の擬音語は大きな音、無声音の擬音語は小さな音を表す。この感覚(音韻象徴)は日本語固有のものだが、日本語非母語話者も、直接これらの擬音語について教えられなくても、初歩的な日本語の話しことば、書きことばを学習すると、(日本語母語話者ほどではないが)ある程度この感覚が理解できるようになる。
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