研究概要 |
頭部を固定しない条件で眼球運動を定量的に図る方法とその解析プログラムを開発し,それらを用いて,生後1年間の乳児のアンチサッカード課題における反応を横断的に検討した。キューと反対側を指向した反応はターゲット出現後100ms以降の長い潜時であったが,先行研究(Johnson,1995)と一致して,乳児の予測的な(anticipatory)反応であることが示唆された。これらの反応の頭部,眼球,ゲイズの運動軌跡を,復帰抑制課題においてキューと反対側を指向した反応と比較した結果,アンチサッカード課題ではターゲットへの急峻な頭部運動が認められた。なお,各反応について頭部と眼球の反応潜時を比較した結果,月齢が低い群では刺激に対し頭部運動が先行する傾向が認められた。 一方,12ヶ月齢の乳児6名を対象に,情動制御機能における気質的個人差の測定((1)笑いの誘発場面,(2)恐れの誘発場面,(3)怒りの誘発場面)と行動的抑制傾向における気質的個人差の測定(1.実験室での自由遊び,2.見知らぬ人への反応,3.見慣れない玩具に対する反応)を実施し,実験的観察における行動指標とその測定方法を確立することに努めた。情動表出についてはMAX(The maximally discriminative facial movement coding system)に拠り,行動的抑制傾向については,自由遊び時間中の行動や見知らぬ人や見慣れない玩具に対する回避行動やネガティブな情動をコーディングし分析した。その結果,恐怖エピソードでは,悲しみ・苦痛とともに恐れが表出されたり,怒りが混じった恐れが表出されるなどの個人差が観察された。また,怒りエピソードでは,悲しみと一緒に怒りが表出されたり,恐れが観察された後怒りが表出されるなどの個人差が観察された.また行動的抑制傾向における個人差と恐怖課題との個人差には系統的な関連性はなかった。
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