研究概要 |
本研究は,子どもに対する司法面接の開発を目指す基礎調査である。子どもへの司法面接がうまく運ばない原因として,面接官が子どもの用いる語彙や言葉の特徴を十分に理解していないこと,語彙の少ない子どもに対し,過度に親和的(そのため誘導的になる可能性がある)な質問を行うなどの問題が考えられる。本年度は1.幼児を対象とした実験的調査,2.少年に対する面接調査,3.幼児の証言に関する大人の信念の検討,および4.事例による検討を行った。 1.実験的調査研究:昨年度,幼稚園児20名,小学生1年生20名を対象に,実験的調査を行ったが,本年度はさらに幼児120名に対し,調査を進めた。調査内容は,昨年と同様,(1)語彙検査,(2)気持ちに関する調査(人形劇を示し,主人公である人形の気持ちを尋ねる。寸劇の内容は,探し物を見つける,恐い目に遭う等である),(3)時間に関する語彙調査,(4)情報源の理解に関する課題,(5)心の理論課題,(6)人物の記述,(7)けんか,身体に関わる語彙調査,(8)出来事の報告である。調査は2回にわたる。1週めは,語彙検査,気持ちに関する語彙調査,時間に関する語彙調査を行う。2週目は同じ幼児に1週目の出来事や人物(実験者)について尋ね,けんかや身体に関する語彙についても調べた。結果の一部は発達心理学会において報告した。 2.少年に対する面接調査:語彙に加え,質問の仕方も面接において重要な課題となる。少年事件に関心のある弁護士の協力を得て,中学生15名および大学生20名を対象に調査を行った。参加者に実演による「事件」を目撃してもらい,権威者(弁護士)が誘導項目(実際にはなかった出来事)を含む質問と含まない質問を行う。その結果,誘導項目を「あった」として回答する率は少年と大学生ではほぼ同程度であったが(22-24%),「誘導された」と感じるか否かに違いが見られた。少年では誘導されているにもかかわらず「誘導された」という意識が低い。これに対し大学生では「誘導された」「面接者の言葉による影響を受けた」という意識が強かった。結果の一部は法と心理学会で報告した。 3.幼児の供述がどの程度有効であると思うか,一般市民や大学生を対象に調査を行った。その結果「幼児の証言は信用できる」という回答が6割程度と高いことが示された。これは法心理の専門家に行ったKassinらの研究結果とは異なる。この差については,ワーディングや証言の条件等を工夫し,さらなる検討が必要である。 4.事例研究:発達障害,およびアスペルガーのある児童2名の司法面接の記録を検討する機会を得た。この事例においては両者とも言葉は豊富であるが,大人の受け答えへの同調が高い点が問題として指摘された。
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