前年度に引き続いて、Enriques曲面の位数2の自己同型を研究し、数値的に自明なものや数値的に鏡映なものの分類をより完全なものにした. 1. 数値的に自明な位数2の自己同型をもつEnriques曲面の普遍被覆は直積型のKummer曲面かBarth-Peters型のK3曲面になる.向井・浪川(1984)以来の分類方法はTorelli型定理を使うので、これら(特に後者)の周期を求めることが必須になる.これまでの周期の計算方法は後者が前者と同種になることを使っていて、1カ所複雑な議論があった.今年度前期はその複雑な議論を避ける簡単な議論を見つけることができた. 2. 少し前から塩田・桑田による直積型Kummer曲面のelliptic parameterを決定する論文を研究し、その結果や技術を使って、向井・浪川(1984)以来の方法とは違う方法による分類に挑戦した.ほぼ満足できる所までできたと思っているが、沢山の新しいことが解ったばかりで未整理のため、詳細は別の機会に譲りたい. 3. 前項の中間結果として、Barth-Peters型のEnriques曲面をKummer曲面の商として表すことに成功した.また、その普遍被覆(Barth-Peters型のK3曲面)は4個のD4型有理2重点をもつ4次曲面の特異点解消であることも発見した.さらに、Barth-Peters型のEnriques曲面を特徴付けるには、そのコホモロジー的自明自己同型の固定点集合に含まれる楕円曲線が定めるファイブレーションを用いるのが最も簡単であることに気付いた.これで、完成させようとしている分類論文は大幅に短くなると思う. 4. Enriques曲面の位数2の自己同型で数値的に鏡映なものには2種類ある.この中でKummer型のものを分類し、数理解析研究所のプレプリント(♯1366)"Kummer's quartics and numerically reflective involutions of Enriques surfaces"にまとめた. 5. 上の諸研究をしている間に、Enriques曲面の位数2の自己同型の多くの例が特別な有理楕円曲面から得られることに気付いた.有理楕円曲面は小木曽・塩田によって分類されているので、新しい結果や研究方向がこの方向で得られると期待している.
|