研究概要 |
擬共形4元数構造と普遍モデルの構成に関して,4n+3次元多様体M上の擬共形4元数CR幾何構造と呼ぶ余次元3のカルノー・カラテオドリー幾何構造を考え,その幾何的性質を調べてきた.この年度前半,神谷,ゲスト,酒井氏等と共に幾何不変量としての曲率形式を構成し,その消滅が多様体Mを平坦擬共形4元数CR幾何(Aut(Σ_H),Σ_H)に一意化することを示した.この定義がChern-Moser曲率形式を不変量とするSpherical CR幾何の一般化になっているかどうかをさらに調査した.前半での研究方法により一般的な幾何構造の範疇に属する4元数擬共形幾何学の概念を導入することが可能になった.この幾何構造は4n+3次元多様体M上の余次元3の共形デストリビューションDと各点の階差接空間T_xM=g^<-2>+g^<-1>が4元数ハイゼンバーグリー環に同型という条件を満たすものである.一般論よりこれはパラボリック幾何であるからMは標準Cartan接続を持ち,したがってMaurer-Cartan接続の曲率が消滅するとき,平坦モデル(PSp(p+1,q+1),S^<4p+3>×S^<4q+3>/sp(1))が得られる.しかしこれはリー代数的に構成された曲率が零と言う意味で,幾何的にどのような平坦性かはまだわからないため,今後の研究課題である.後半はもうひとつの問題,不定符号の場合,一般論として平坦モデルS^<4p+3,4q>=S^<4p+3>×S^<4q+3>/sp(1)がとれるわけであるがこれは幾何的に構成したモデル空間Σ^<3+4p,4q>_Hを稠密開部分多様体として含んでいる(特に定正符号の場合は二つの空間は一致.)この場合Σ^<4p+3,4q>_H上にのみ自由に作用する3次元リー群Sp(1)があることがわかり,主束Sp(1)→Σ^<4p+3,4q>_H→Σ^<4p,4q>_Hを考える時,この主束の接続形式すなわちsp(1)-値1形式ω=ω_1i+ω_2J+ω_3kを使ってΣ^<4p+3,4q>_H上に擬共形4元数CR構造を定めることを証明した,この考察の下でさらに次のことが成立することを示した.その擬共形4元数CR構造はS^<4p+3,4q>の標準4元数擬共形幾何構造D_0に従属している.このとき付随する擬リーマンアインシュタイン計量は開多様体としてのΣ^<4p+3,4q>_H上に存在するがS^<4p+3,4q>には伸びない.この類似の結果が当然CR構造にもあり,Chern-Moserが平坦CRモデルといっていた2次曲面Σ^<2p+1,2q>_Cは不定符号の場合Cartan接続から出てくる平坦モデルS^<2p+1>×S^<2q+1>/U(1)とは幾何的に異なるということになってしまう.実際,本質的な違いは擬共形4元数CR幾何構造の場合は積分可能を与える3個の式が同時にその構造を保つ局所リー群Sp(1)の存在まで示すのに対して,擬CR幾何構造においては同様に積分可能を与える一個の式だけでは,CR構造を保つリー群U(1)の局所的存在すら出てこないことに起因する.今後はまた、アレキセイエフスキー氏とまだまだ,解明されない点を多く含んでいるこの幾何構造を継続して代数的,幾何的に調べていく.
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