研究分担者 |
尾畑 伸明 東北大学, 大学院・情報科学研究科, 教授 (10169360)
小澤 正直 東北大学, 大学院・情報科学研究科, 教授 (40126313)
幸崎 秀樹 九州大学, 大学院・数理学研究院, 教授 (20186612)
植田 好道 九州大学, 大学院・数理学研究院, 助教授 (00314724)
洞 彰人 岡山大学, 大学院・自然科学研究科, 助教授 (10212200)
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研究概要 |
最近20年,D.Voiculescuが開拓した自由確率論は,非可換確率論の一つとして大きな発展を遂げた.自由確率変数の漸近モデルであるランダム行列や,自由確率論に固有なエントロピーである自由エントロピーを基に,自由確率論,代数的確率論,作用素環を研究した.最近の成果として, (1)日合は,多変数の非可換確率変数に対して自由圧力関数を定義し,そのLegendre変換によって多変数の新しい自由エントロピーを導入した.これは,多変数の自由エントロピーに対するVoiculescuの2通りの方法(行列近似の方法と非可換Hilbert変換の方法)に加えて,第3の方法を提起するものである.一般にはLegendre変換を使う自由エントロピーはVoiculescuの自由エントロピーと必ずしも一致しないが,両者が一致する場合を考察し,またLegendre変換による定義を上手く修正すると,Voiculescuの自由エントロピーと常に等しくなるようにできることを示した. (2)日合・Petz・植田は,最近の注目すべき話題である自由エントロピーと自由情報量を用いた対数Sobolev不等式や輸送コスト不等式の自由確率類似について,以前に開発したランダム行列に対する大偏差原理を基礎とするランダム行列近似による古典確率から自由確率への近接の方法を用いて,系統的な研究を行った.1変数の場合には,自由対数Sobolev不等式と自由輸送コスト不等式のいずれも既に完全な結果が得られているが,多変数の場合は,まだ不完全な結果しか得られていない.日合・植田は,自由輸送コスト不等式について,現段階で知られた方法で証明可能な最良の結果を得た. (3)ゲージ不変C*-系において,通常のスピン系における結果を拡張して,平行移動不変な平衡状態を記述するKMS条件,Gibbs条件,変分原理の同値性を示し,extremalな平衡状態のエントロピー密度を巨視的一様性と関連して考察した. (4)小澤は,観測過程における普遍的な不確定性原理の新しい定式化に成功した,また幸崎は,不確定性原理と関連する行列トレース不等式を証明した. (5)植田は,幾何学群論で有用なHNN拡張の構成法をvon Neumann環に適用し,それによってできるvon Neumann環のモジュラー理論,因子性,超積などについて考察した.
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