研究概要 |
本年度は主に次のような研究を行いました。 1.テータ因子が非特異な場合の主編極アーベル多様体のテータ関数の微分構造の決定, 2.種数3の超楕円曲線の周期行列から定義されるテータ関数の微分構造の決定, 3.超楕円曲線の場合のFayの公式の退化の研究。 以下にそれぞれの研究についてもう少し具体的に説明します。1,2共に、テータ因子にのみ極を持つアーベル多用体上の有理型関数全体のなす空間が微分作用素のなす環上の加群としてどういう構造を持つか調べるという研究です。超楕円曲線のヤコビ多様体の場合には報告者らの以前の研究で明示的な自由分解の予想が立てられています。この予想はテータ関数のある種の微分関係式がこれこれで尽きるという内容のもので非常に興味深いものですが種数1,2の場合しか証明されていません。1ではテータ因子が非特異の場合に同様の結果を厳密に証明したというものです。2は種数3の場合に予想を証明したというものです。高次元シグマ関数の展開に関するBuchstaber-Enolski-Leykinらによる理論をうまく使うことが出来て証明が出来ました。このアイディアは他の場合にも応用可能で現在その方向で研究中です。 次に3についてです。大西良博氏は楕円関数論におけるFrobenius-Stickelbergerの公式といわれる基本的な公式を,超楕円曲線の場合に美しい形で拡張しています。この公式がFayの行列式公式といわれるリーマン面のテータ関数に関する基本公式から因子の退化という操作で得られることを証明しました。この操作はテータ因子の特異点の構造に密接に関係しており1,2の方向の研究にも関係して来るものと思われます。
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