研究概要 |
解が積分表示を持つような微分方程式の特徴付けと積分表示の幾何学的構造の解明,およびその構造を用いた解析を目的としていた. 本年度は,延長可能性,可約性,rigidity,有限鏡映群のと関係に特に焦点を当てる計画であった. 延長可能性に関する研究では,Dotsenko-Fateevの方程式を4階2変数の完全積分可能系へ延長するという問題において,延長可能性によってアクセサリー・パラメーターの値が決まるのみならず,延長した完全積分可能系までが一意的に決まることを見出した.これは特異点集合への制限が可逆操作であることを示す興味深い例となっていて,微分方程式の変形理論にも新しい視点を与える結果である。また変形方程式はmiddle convolutionで不変であることを既に示しているが,これを延長と結びつけることで(延長は変形とも思えるので),多変 数完全積分可能系に対するmiddle convolutionの自然な定義が得られるのではないかと期待される. 有限鏡映群をモノドロミーに持つ完全積分可能系の構成については,連携研究者の加藤満生氏との共同研究で結果をまとめることができた.さらに対数的ベクトル場を用いることで,この完全積分可能系の変形を計算することができ,新しい完全積分可能系の系列を構成することができた. 三町勝久氏との共同研究では,rigidな方程式の解の積分表示においてレゾナンスが起きている場合に,特性指数を実現するcycleをどのように構成すればよいかという問題について具体的な予想を立てることができた.これが証明されれば,積分表示の理論における基本定理となるであろう.齋藤政彦氏,岩崎克則氏との共同研究では,rigidでない方程式の代数幾何学的特徴づけについていくっかのアイデアを得ることができた. 研究集会「Workshop on Accessory Parameter」「Workshop on Accessory Parameter at Kumamoto」を行い(大島利雄氏と共催),様々な成果の交流や新しい問題提起を行うことができた.また中央大学で定期的に開かれているEncounter with Mathematicsの第47回の企画・講演を担当し,本研究の内容について大学院生をはじめとする聴衆に広く周知した.これらの活動により,不確定特異点型の方程式に対するmiddle convolutionの定義,quiver理論とmiddle convdutionの関係の解明,部分Wronskianのみたす微分方程式を用いた接続問題,変形方程式の分類理論など,多方面における新しい展開が得られることとなった. 本研究で得られた成果は,Fuchs型方程式の大域解析に新しい視点と新しい手法を提供するものであり,将来の発展が見込まれる.そのうな方向性も含めて,日本数学会年会の企画特別講演で成果を報告した.
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