本研究により、筑波大学のそばにある国土地理院の32mアンテナ用に20GHz帯受信観測システムを開発し搭載した。具体的には20GHz帯冷却増幅部、周波数4-8GHzの中間周波数部、8ビットのデータで周波数帯域幅1GHz・分光点数16kチャネルのフーリエ変換型デジタル分光計、電波強度較正装置、単一鏡観測用制御ソフトウェアー等を独自開発し、大気込みのシステム雑音温度として水メーザーの周波数22.2GHz付近において冬期夜間天頂においてTsys=75Kを達成した。またアンテナの指向性等の向上と性能を行い、主ビームの全幅半値幅HPBW=100"、主ビーム能率50%、全天での指向誤差15"等を達成した。また極めて大きな定在波を発生していた雨避けカバーを低損失のものに交換し、実効雑音を数十分の一に減少させて、理論的な雑音レベルと同等程度を実現した。これらにより、活動的銀河中心核からの水メーザーの単一鏡および超長基線電波干渉法(VLBI)による観測を可能とした。 この32m鏡20GHz帯受信観測システムを用いて活動的銀河中心核であるセイファート銀河の水メーザーの観測およびVLBIによるその詳細な構造の解明を行っている。特にIC1481という銀河において、銀河中心部にきれいな回転曲線を持つ高密度分子ガスの円盤を発見した。その回転速度は銀河中心からの距離の関数としてケプラー回転より有意にゆっくりと減少しており、ガス円盤の質量が大部分を占めていて中心にブラックホールがあったとしてもガス円盤の質量の4分の1以下であることがわかった。またこの中心核コンパクト円盤の回転軸の方向と銀河全体の回転軸の方向とは互いに60度以上も異なっており、水メーザー観測から得られている他のセイファート銀河での結果と一致することもわかった。今後さらに銀河の事例を増やし、統計的有意性を高める予定である。
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