研究概要 |
S-LSRに装備されている静電デフレクターが冷却ビームに及ぼす影響を,分子動力学コードを使って系統的に調べた.デフレクターへの印加電圧を適切に選ぶことにより,円形加速器特有の運動量分散効果を抑制できるが,このとき"非テーパー散逸力"に基づいた蓄積ビームの結晶化が実現可能であることを確認した.また,運動量分散の無いリングに結合高周波空胴を設置し,進行方向自由度にのみ散逸力を与えた場合のシミュレーションも実施した.その結果,S-LSRにおいて,殻構造を有するクリスタルビームを生成できる可能性のあることがわかった.ウィーンフィルターを用いた3次元レーザー冷却スキームの有効性についても,現在検証中である. 分担者の野田による,重イオンビームの入射・蓄積実験にも大きな進展があった.まず,陽子ビームやマグネシウムビームの安定な蓄積に成功した.前者については,電子冷却法の適用により,相転移の発生を示唆する観測データが得られたとの報告を受けている.マグネシウムビームのレーザー冷却に向けた準備も進んでおり,まもなく予備的な実験が開始される予定である. 線形ポールトラップを用いた実験では,プラズマの非線形共鳴不安定性が観測された.1千万個前後のアルゴンイオンから成るプラズマを生成し,共鳴ストップバンドが粒子密度に依存してシフトすることを発見した.他方,カルシウムイオンプラズマにレーザーを照射し,実際に冷却効果が得られていることも確認できた.レーザー波長の調整精度が未だ不十分なためドップラー限界温度には至っていないが,冷却の影響によるイオン損失率の極端な低下を観測している.
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