研究概要 |
ウィーンフィルターを用いた3次元レーザー冷却に関する理論的解析を行った。S-LSRのラティス構造を考慮した系統的な分子動力学シミュレーションを実施し,この方法により紐状クーロン結晶の生成が可能であることを確認した。ただし,ラティス対称性の弱い破れが原因で,線密度の高いビームを結晶化することはやはり困難であることがわかった。しかしながら,この冷却スキームはシンクロベータトロン共鳴を必要としないため連続的なビームに対しても有効で,また蓄積リングの動作点を柔軟に選択できる点でも優れている。 S-LSRに導入されたレーザーシステムのチューンアップが完了し,研究分担者の野田を中心に初期的なレーザー冷却実験が行われた。運動エネルギー40keVのマグネシウムビームに対して,波長およそ280nmの連続レーザー光を照射し,進行方向自由度のみの1次元的な冷却効果を確認した。横方向自由度の冷却効率を改善するには共鳴結合法の適用が必要で,そのための低電圧高周波空洞の設計・設置作業が現在進められている。また,レーザーの波長制御および安定化を図るため,プラズマトラップ実験用に開発したシステムの応用を検討中である。 ビーム相転移の実現を決定的に阻害する恐れのある線形共鳴不安定性の実験的研究をイオントラップシステム"S-POD"を使って実施した。四重極電極に長周期の摂動高周波電場を付加して強制的に共鳴を誘起し,その発生条件を様々なプラズマ密度で調べた。その結果,従来の予想に反し,集団的な共鳴不安定性だけでなく,個別粒子運動の非集団的な共鳴が原因と考えられる粒子損失を見いだした。他方,昨年度完成させたレーザー冷却システムを使ってカルシウムプラズマを極低温化し,少数個のイオンから成る紐状クーロン結晶の生成に成功した。
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