研究概要 |
加速器が生み出す荷電粒子ビームはきわめて有用な先進的ツールとして,基礎物理学の領域だけでなく,医療,物質・材料科学,生命科学,産業など,多方面で積極的に活用されている。本研究は,過去の理論的・実験的研究成果を踏まえ,超高品位イオンビームの実現に向けて一歩踏み出したものである。ビームの"質"を極限まで高めるために必要な物理的条件を高度なシミュレーション技術を駆使して解明すると共に,小型のイオントラップシステムを応用し,ビーム物性の系統的実験研究を展開した。また,蓄積リング"S-LSR"を使って,低エネルギー重イオンビームの冷却実験を行った。研究期間内に得られた主な成果は以下の通りである: 1.運動量分散の存在しない特殊な蓄積リング中を周回する超低エミッタンスビームの軌道安定性を理論的に検討し,多次元クーロン結晶の生成に"テーパー散逸力"が不必要であることを証明した。 2.ウィーンフィルターを用いた3次元レーザー冷却シミュレーションを実施し,連続的な紐状クーロン結晶状態が実現可能であることを確認した。 3.非中性プラズマトラップ技術を応用した実験的加速器シミュレーター"S-POD (Simulator for Particle Orbit Dynamics)"を設計・構築し,高品位イオンビームにおいて顕在化する集団現象について詳細に調べた。 4.レーザー冷却システムおよびレーザー誘起蛍光観測システムを構築し,少数個のカルシウムイオンをクーロン結晶化することに成功した。 5.S-LSRを周回するマグネシウムビーム(運動エネルギー40keV)のレーザー冷却に成功した。また,7MeV陽子ビームを電子冷却することにより,1次元秩序化現象を観測した。
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