K中間子ヘリウム原子の3d→2pX線のエネルギーを精密に測定して、K中間子と原子核の間の強い相互作用について明らかにする実験KEK-PS E570を本計画研究経費によって行った。当初実験は、平成17年の秋口に終了の予定であったが、十分な統計を得るために延長申請を行い、KEK-PSの最後の実験として、平成17年一杯データ収集を行った。平成18年度は収集されたデータの解析を集中的に行った。この3d→2pX線は過去に3回にわたって測定がおこなわれて、結果の平均は40±8eVという極めて大きな斥力的なシフトを示しており理論との大きな不一致が長らくパズルとして知られていた。 本実験は過去の測定に比較して、(1)新規に開発された大面積・薄型でありながら、分解能のよいシリコンドリフト検出器(SDD)の採用(2)in-beai環境でTi/Ni薄膜からの特性X線を用いてX線エネルギーを絶対精度1eV程度で較正(3)入射K中間子及び反応から放出される荷電粒子の軌跡検出から、確かにヘリウム標的中にK中間子が静止した事象の選択を行った点が新しく、統計・分解能・S/Nの全てを圧倒的に改善した測定によって、シフトはほぼ0であることが2eV程度の極めて小さい統計誤差で明確に示され、結果は原著論文として公表済みである。 また、K中間子ヘリウム原子の2p状態の幅についても過去の実験は40eV近い幅を示唆していたが、本実験では16eV(95%CL)の上限を得た。ピークの収量と合わせて原著論文として投稿する最終段階にある。
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