本研究計画の目的は、STM探針直下に位置する吸着種の振動運動によりSTM発光スペクトル中に誘起される微細構造の解析からその表面吸着種の振動エネルギーを決定するための手法を確立することにある。研究計画調書に基づいて策定した実施計画に沿って研究を行い、平成17年度では以下の成果を得た。 (1)振動励起機構の解明:研究の開始時点で、トンネル電子励起と局在プラズモン励起の2種類の振動励起過程が存在し、振動励起の微細構造形状はこれらの過程に依存すると予想していた。この予想を、Ni(110)表面に吸着した酸素原子のSTM発光スペクトルの解析から確認した。銀上に吸着した水素原子のSTM発光スペクトルにはこれらの過程を共に反映した(二種類の)微細構造が同時に現れると予想している。この予想を確認するために、原子水素源を準備・装着し、正常動作の確認まで終了した。銀上の水素原子の実験は平成18年度に行う。 (2)計測可能な振動モードの解明 単純な吸着種系:酸素原子のNi(110)表面吸着系とCu(110)吸着系について実験を行った。Cu(110)吸着系では専ら赤外活性なモードが観測されるのに対し、Ni(110)吸着系では赤外不活性なモードが強く観測されることを発見した。機構の解析は現在行っている。 複雑な吸着種系:超高真空STMシステム(既設)の内部を汚染することなく試料基板上に蒸着可能な分子(例えば、ベンゼン)の試料準備のため、ピエゾパルスバルブで構成した露出系を試作し、超高真空STMシステムへの装着を完了した。また、超高真空STMシステム中では蒸着できないような種類の吸着種に対しては、専用の蒸着チェンバー(既設)で作製した試料を超高真空STMシステムまで移送する。この際、試料表面が大気で汚染されることが無いように超高真空移送容器の試作を計画していた。可搬型の排気系を有する移送容器を完成させた。 以上のように、本年度当初の計画内容はほぼ達成され、研究計画は頂調に進展しているといえる。
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