研究概要 |
本研究の目的は、II-VI族磁性半導体を素材として、量子井戸、量子ディスク、量子ドットなどの磁性半導体量子構造と磁性体を組み合わせた「複合量子構造」を創製し、この複合構造における光励起による電子スピンの緩和過程,スピン輸送・注入、スピンの光制御などのスピン物性の解明とスピン光機能性の開発を行うことにある。 本研究では,CdTe、CdSe、ZnTe、ZnSeなどのII-VI族半導体とMn、Coなどの磁性体、またこれらの磁性イオンを含む磁性半導体を,複合量子構造の素材として用いた。量子構造は、分子線エピタキシー法とスパッター法を併用して作製した。この方法によりCdTe/Cd_<1-x>Mn_xTe系、CdSe/Cd_<1-x>Mn_xSe系、ZnSe/Zn_<1-x>Mn_xSe系の量子井戸、量子ドットおよびCo系磁性層を結合させて磁性複合量子構造を作製した。また、電子線描画とウエットエッチングにより20-100nmの極微細加工を行い、光学特性の優れた磁性半導体ナノ構造、磁性半導体-磁性体複合量子構造を作製した。これらの磁性複合量子構造において、光励起により起きる電子のスピンダイナミクス、スピン緩和現象を、フェムト秒パルスレーザーを用いたポンププローブ過渡吸収分光、発光時間分解分光により研究した。特に磁場中の光励起により、量子井戸にスピンを偏極させた電子・正孔を生成させ、これらの電荷とスピンを,離れた場所にある量子井戸,量子ドットへ注入させる技法を開発し、その物理を明らかにした。また強磁性体を含む複合量子構造において、半導体量子井戸中の電子スピンの配向を制御することに成功した。これらの結果より、物質内に光や電流により電子スピンを偏極して生成させ、この電子スピン状態を保存したまま輸送し、別の場所に注入させるスピンの制御・注入を実証し、「スピンエレクトロニクス素子」開発の技術的基礎を確立した。
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