研究課題
基盤研究(B)
近年、走査プローブ顕微鏡の発達により、固体表面の個々の原子の運動(拡散)の観察が可能になってきた。そこで、本研究では、基板と吸着原子・分子の相互作用の違いに着目しながら3つの系を選び、原子レベルでの拡散過程、核形成及びクラスター成長機構を明らかにした。第1の系として、相互作用の弱いSi(111)7×7表面上のAg原子を選択し、STM観察を行った。その結果、Ag原子は、7×7表面上で、長周期ポテンシャルに捕らえられながら障壁を越えて移動し、様々なナノメートル形状のクラスター(Ag)nに成長する過程を明らかにした。Ag原子の拡散過程は、障壁を越える際、隣のサイトにいる(Ag)nクラスターに依存する協力的拡散現象を示す。走査トンネル分光によりクラスター(Ag)nの電子状態の観察を行い、n=5,6のクラスターにおいて、特徴的な電子状態を示すことを明らかにした。第2の系として、相互作用の弱い水素終端Si(111)1×1表面上のペンタセン分子の成長過程を選び、低速電子顕微鏡観察を行った。その結果、有機半導体薄膜結晶の多結晶組織の発達機構及び基板表面の影響に関する知見を得た。この研究の初期過程において、テラス幅が広く、エッチピット等の欠陥の少ない高品位水素終端Si(111)1×1表面の開発に成功した。また、重水素終端表面の作成に成功し、電子エネルギー損失分光法により表面フォノンの特徴を明らかにした。第3の系として、相互作用の強いSi(111)7×7表面上のPt原子を選択した。その吸着過程、及び基板を過熱することによるシリサイド形成過程を明らかにした。原子数まで正確に求まったクラスターの構造と電子状態を求めることができれば、クラスターの成長過程、各種デバイス、表面反応、触媒作用等を原子1個の精度で解析することが可能である。本研究は、このような研究の第1歩であり、今後も継続して研究を実施する計画である。
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