研究概要 |
本年度は,モット系低次元有機導体の転移点近傍臨界状態における自己組織的不均一状態を研究するために以下のような実験環境整備と共に,電流印加したK-TCNQの非線形伝導状態で出現する実空間パターン形成過程の走査型局所赤外反射スペクトル測定を行った. 1.実験室光源系走査型赤外スペクトル測定装置の整備 現有する顕微赤外反射スペクトル測定装置に,実空間マッピング測定が可能になるようにxyzオートステージを組み込み走査型測定が可能になるような改良を行った.また赤外測定波長範囲を,光源,検出器などを追加して組み込むことにより上限7000cm^<-1>から近赤外領域の12000cm^<-1>まで拡張した.このような改良により,中赤外領域での分子振動測定から近赤外領域のバンド間遷移を利用した幅広い波長領域での赤外スペクトルのマッピング測定が可能になった. 2.放射光赤外光を用いたK-TCNQの電流誘起パターン形成の走査型局所赤外反射スペクトル測定SPring-8放射光光源を使用することで赤外波長程度まで局所化した赤外反射スペクトル測定を電流印加により誘起した低抵抗状態で発現する数マイクロメートル間隔で出現するパターンに対して行った.現在の空間分解能は,約10マイクロメートルであるためパターンの1本1本を識別するにはいたらなかった.しかし,パターン出現領域は,そのほかの領域に比べて金属的性質が現れていることがわかった.このことは電流誘起の低抵抗状態では空間的に不均一な電子状態が誘起されていることを明瞭に示している. 3.強相関モット系有機導体単結晶作成 本研究で対象にしているモット系有機導体単結晶の作製を,結晶の品質をさらに向上させるよう作製方法に検討を加えながら継続的に行った.作製された単結晶試料は,2の実験に使用されるほか,他グループにも提供した.
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