研究概要 |
ダイマーモット系有機導体κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]BrのBEDT-TTF分子(h-BEDT-TTF)のエチレン基を重水素化した分子(d-BEDT-TTF)で部分置換することにより全重水素置換体から水素化体まで連続的に化学圧力を変化させることでバンド幅制御を行った単結晶試料を作製し,モット転移の極近傍において1次転移に起因するマクロな金属絶縁体相分離状態の出現を観測してきた.本年度は,この系の1次相転移近傍の相分離による不均一を反映する電気伝導度の測定を詳細に行った.1次転移に伴う相分離状態における電気伝導は、相転移に伴う変化に加えて相分離に伴うパーコレーション的な伝導パスの形成、切断に伴う変化が重畳される.特に低温の超伝導と反強磁性絶縁体の相分離状態では超伝導ドメイン結合による効果が顕著に現れることが予想される.ゼロ磁場,15Tまでの磁場中での面内電気抵抗の温度依存性の測定から,1次転移温度の磁場変化はほとんどないか,かなり小さいことが明らかになった.一方、1次転移線以外のところで,複数の抵抗のとびが観測され,またそれらは磁場依存を示す.これらのとびは相分離状態における相分離ドメインの形態,状態変化が磁場で起きているためであると考えられる. また同系において,実験室光源を用いた顕微赤外反射スペクトルの測定を,特にモット転移の極近傍に位置する試料に対して行い,S字型に湾曲した1次転移に起因する絶縁体-金属-絶縁体のリエントラント転移を光学測定によっても検証した.またリエントラント後の低温域では,金属と絶縁体のスペクトルの重畳が観測され,相分離が起こっていることも確認された.
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