研究概要 |
本研究は,種々の方法で強相関有機導体に対して本質的な不均一状態を誘起させることで,臨界性による自己組織的な状態変化を明らかにするものである.本年度は,エックス線照射による人為的な分子欠陥の系統的な導入による電子状態制御を行った.結果としてエックス線照射により分子欠陥の誘起により結晶内で局所的な電荷移動のバランスを崩れ実効的なキャリアドープが可能であることを実証することができた.単結晶試料に対するエックス線照射は,室温で行い,弱い白色エックス線(タングステン管球40kV,20mA)を照射した.モット絶縁体であるκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Cl,κ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3の場合,室温照射中に照射時間に対する顕著な抵抗の減少が見られ,キャリアが誘起していることを示唆する結果が得られた.この実効的なキャリアドープは,分子欠陥の生成により結晶内電荷移動が局所的にアンバランスになった結果と考えられる.また照射後の試料では金属的な抵抗の温度依存性が表れる.今回の発見は,これまで不可能であった分子性導体に対する人為的なキャリアドープ制御の可能性を示し,新たな電子状態制御手法を実証した成果である.また,金属マスクを使用して,部分的にエックス線照射を行ったモット絶縁体試料では,本研究で開発した走査型局所赤外イメージング手法により,マイクロメータ程度の領域の照射部分のみが低抵抗を示すことを実空間画像として示すことができた.これは,強相関モット絶縁体に伝導性部分を任意の形状で描画するなどの加工可能性を示す成果であると考えられる.
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