サイズがナノスケールの超伝導体で現れる特殊な渦糸状態を、独自の方法(Multiple-Small-Tunnel-Junction(MSTJ)法)を用いて実験的に研究した。この研究は、構造をナノスケールで制御した超伝導体における超伝導の性能向上(高臨界電流、高臨界磁場)のための基盤研究、基盤技術蓄積としての意義を持つ。MSTJ法は、最新の渦糸可視化技術(走査トンネル顕微鏡、走査SQUID顕微鏡など)では観察不可能な微小領域の超伝導情報を得るための有力な方法で、これまでに巨大渦糸発見など新規渦糸の探索に成果を挙げている。 今年度は、以下の項目についての研究を行った。 1.反渦糸状態の検証 ナノスケール超伝導体における出現が理論的に予測されている「反渦糸状態」の検証実験を行った。理論グループ(Prof. Peetersグループ(アントワープ大(ベルギー))のギンツブルグ・ランダウ理論に基づいた計算をもとに、反渦糸が出現するパラメータ(試料形状、温度、磁場)を特定し、その条件でMSTJ測定を行ったが、反渦糸の存在を示唆する結果は得られなかった。現在理論グループとその原因を検討している。 2.渦糸を用いた情報処理 矩形メゾスコピック超伝導体に渦糸を2個保持した際の渦糸配置を情報「0」「1」に対応させ情報処理を行うことを目標として基礎実験を行った。MSTJ測定によって、「0」「1」の識別に成功した。今後は、入力信号を印加することで、演算を試みる。 3.昨年度に実験と理論解析を行った1次元渦糸状態について、論文にまとめた。 4.MSTJ法を中心としたこれまでの研究について総説を執筆した。(Oxford University Pressより出版予定)
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