研究概要 |
本研究では,異なる秩序が拮抗する競合秩序系の境界付近での量子臨界性が関与した高周波電気伝導を調べることにより,各秩序形成の本質を理解することを目的とした。特に問題を銅酸化物高温超伝導体の超伝導・反強磁性境界周辺でのTHzまでの複素電気伝導度測定に絞り,超伝導ゆらぎがどのように消えてゆくか,あるいは生き残るのか,常伝導状態に理論から存在が示唆されている特徴的な異常な電荷励起があるのか否か,それらは互いにどう関連するかなどについて明らかにし,高温超伝導発現機構の理解の本質に迫る情報を提供することを目指した。本研究では,手法的にも,競合秩序相の相境界でのTHzまでの電荷励起の直接測定を行うことによって,競合秩序の物理学,とくに銅酸化物高温超伝導体の電子相図の理解の最も本質的な部分に決着をつけることを目的とした。 最終年度である本年度は以下の成果を得た。 (1)測定用薄膜試料を準備した。 (2)磁場下で稼動できるTHzを測定用クライオスタットを作成した。 (3)不足ドープ領域のLSCO(x=0.07,0.12)で室温から液体ヘリウム温度までTHz領域の複素電気伝導度測定を行った。その結果(a)超伝導転移にともなう伝導度の虚部(超流体)の急激な増加が観測された。(b)それに加えて,250K付近から温度の低下とともに伝導度の虚部が増大してくることを発見した。異なる2組成の試料ともこの現象を示し,その開始温度は角度分解光電子分光などで提唱されている,いわゆる擬ギャップ温度とよく一致することがわかった。これらのことから,擬ギャップの起源としては,超伝導揺らぎというよりも,スピン一重項の形成という解釈が好都合であることが示唆される。また,本測定では,ネルンスト効果との直接の対応を示すような事実は何も見つからなかった。 (4)パイロクロア型超伝導体CsOs2O6のミリ波領域での表面インピーダンスを測定した。その結果,この物質では,ラットリング運動が直接ミリ波領域の電気伝導に大きく寄与しているという兆候は捕らえられなかった。
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