本研究はチタン酸ストロンチウムを素材とし、酸素欠損量をコントロールすることで理想的な高移動度二次元電子系を作製することを目指すものである。本年度は、特にSrTiO_3/LaAlO_3人工構造を作製し、その界面において自然に形成される酸素欠損層の様子を電子顕微鏡で観察し、その形成の機構について議論を行った。SrTiO_3においては、最表面層が原子層レベルで平坦であり、かつ化学的エッチングにより終端面をTiO_2層にそろえた単結晶基板が購入可能である。我々は、このような基板を用いて人工構造を作製し、特に反射高速電子線回折の強度をモニターしながらSrOを一層のみ積層することで、AlO_2/SrO/TiO_2界面とAlO_2/LaO/TiO_2界面の作り分けに成功した。電子顕微鏡で観察すると界面の急峻性において大きな差が観察された。また、製膜後のアニール処理により薄膜の結晶性が向上するとともに、SrTiO_3中の酸素欠損が満たされる効果は確認されたが、界面の原子配置あるいは電子構造は変化しないことがわかった。さらに、p型の過剰電子がない界面においては多くの酸素欠損が存在するのに対して、n型の過剰電子が存在する界面においては、わずかな酸素欠損を導入して電気的に安定な界面を形成していることがわかった。このような機構は、さまざまな価数をとることが可能である遷移金属酸化物においてはじめて問題となる機構であり、従来の半導体界面の物理には全く現れない新奇な現象である。この酸化物の界面の電気的な安定性の理解は、今後の酸化物のデバイス応用に向けて非常に重要な手がかりとなるといえる。
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