高圧NMR装置に関しては、定荷重方式による4万気圧加圧下でのNMR測定技術開発を中心に研究してきた。その結果、現在では4万気圧まで安定して加圧できる装置の構築に成功している。この装置では、マグネットに挿入してあるNMR測定用インサートに高圧プレスを装備していて、荷重をNMR用インサート先端の圧力セルに直接伝える仕組みになっている。通常の方法では、圧力セルの構成パーツに収縮率の違いがあるため、低温で圧力の低下がしばしば起こる。この装置を用いると、油圧プレスの荷重をコントロールすることで、低温でも安定して高圧を保持することが可能となった。この装置の最高達成圧力、荷重に対する圧力セルの変形についての基礎的データは得ており、一部は2007年度に掲載される予定で、一部は投稿中である。現在この装置を使って圧力誘起超伝導体である梯子格子系銅酸化物と梯子格子系バナジウム酸化物を中心に測定している。特に銅酸化物の方は、3万気圧で超伝導が現れ、4万気圧で超伝導転移温度が最大になるため、この装置の存在は極めて重要であるといえる。実際に、3.8万気圧下で銅酸化物の測定を行っており、金属状態では絶縁体梯子格子に見られるようなスピン一重項生成によるスピンギャップ、超伝導状態では電子対生成による超伝導ギャップを観測することに成功している。このスピンギャップは3万気圧までは一定で、3万気圧を超えて超伝導が現れ始めると値が小さくなることがわかった。これは、両者が密接に関係し、異常な金属状態を形成しているもとと考えられる。一方、バナジウム酸化物では、7万気圧で超伝導になるため、超伝導状態での測定は今後の問題であるが、常圧で反強磁性秩序が現れることが知られているので、圧力をかけるとこの秩序相が消滅するのか、あるいは安定に存在して超伝導相と隣接するのかどうかについて現在測定中である。
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