研究概要 |
単結晶基板上に作製されたナノ薄膜やナノ構造体における局所的な磁性や電子スピン分極の探査と解明を目指して,放射光核共鳴散乱法(放射光メスバウアー分光法)の実験条件最適化と実験データの収集を推進した。今年度は,昨年度に引き続きナノスケールの厚さをもつCr層とその上に蒸着された^<57>Fe単原子プローブ層の磁性を探る実験を行うとともに,伝導電子が100%スピン分極した「ハーフメタル」の候補物質としてスピンエレクトロニクスの分野で期待されているX_2YZ組成のL2_1型ホイスラー合金およびそのY,Zサイトを同一元素にしたB2型人工合金の局所磁性を探る実験を行った。原子層制御交互蒸着法を用いて最適条件で作製されたCo_2MnSnホイスラー合金薄膜においては,局所磁性の乱れが少ない良好な薄膜試料の実現を反映し,美しい周期振動パターンをもった核共鳴散乱時間スペクトルが観測された。一方,Co_2TiSnホイスラー合金薄膜では。作製温度に依存して室温における局所磁性のみならず低温における磁性も大きく異なることが明らかになった。また,CoSn人工合金薄膜の核共鳴散乱時間スペクトルにはCo_2MnSnと比較して長い周期の振動が見られ,室温、低温ともに比較的小さな内部磁場が誘起されていることが示唆されている。この結果は,CoSn合金が小さな磁気モーメントと室温より十分高い磁気転移温度をもつ強磁性体であることを意味しており,この合金のスピンエレクトロニクス材料としての可能性に期待がもたれる結果となっている。以上のように,発展中の放射光核共鳴散乱法をナノ薄膜やナノ構造体に特有な電子状態の探査に有効利用し,他の測定法では得ることが難しい情報を得ることに成功した。
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