研究概要 |
本年度の成果を以下に列挙する。 (1)θ型ET塩の非線形伝導を電場中のX線回折,電流-電圧特性,直流バイアス下での誘電率測定によって調べた。その結果,電流密度に応じて余分の自由電子が融解することを見出した。これは電流密度によって抑制される電荷秩序ギャップから計算される準粒子の増加分と判定量的に一致する。 (2)電荷秩序系分子性物質beta-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6が,電場誘起準安定状態を示すことを,電圧および電流制御I-V測定,サンプル電圧変化の時間依存性から明らかにした。さらに電場印加下で,電場誘起状態をチョッパーで切り出したラマン分光測定を行い,90ミクロン直径の範囲で長距離電荷秩序が完全に融解して,短距離あるいは金属状態に変化したことを明らかにした。 (3)現象論的エネルギーバランスの関係にもとついて非線形伝導特性をシミュレーションすることを試み,電流-電圧特性やしきい電流・電場の温度依存性などが定量的に再現できるばかりでなく,振動だけでなくカオス的出力が得られる可能性があることを明らかにした。さらに(TMET-TTP)4PF6や(BEDT-TTF)3(HSO4)2における電流-電圧特性やしきい値における電力の温度依存性の違いなどを正確に予測できることを明らかにした。 (4)C*代数の方法で得られる非平衡アンサンブルと平均場近似を組み合わせ,非平衡パイエルス転移を調べた。これまでに電圧・温度を制御変数にした場合に一次,二次転移が可能であること,負の微分伝導度が生じ得ることを示したが,今回は,電流・温度を制御変数にした場合には秩序変数が温度一定の下で電流の一価減少関数となり,二次転移のみが生じることを明らかにした。
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