研究概要 |
乱流の重要な特性のひとつである強い混合作用のダイナミックスを理解し、その統計的性質の定量的記述法を得るために、規準流れのひとつである、クエット系を取り上げ、パッシブベクトルの不安定周期流解析を行った。乱流の非再現性は、乱流解析の難しさの源のひとつであるが、Kawahara\& Kida(2001)によって発見された不安定周期流は、正定値のリアプノフ数をもつという乱流の特性を備えながらも,同じ状態が繰り返されるので,流れに付随するさまざまな統計量を時間をかければかけるほど高精度で求めることができる。この周期流中に多数のパッシブベクトルを流し,その伸長率や方向と流れの構造の相関を詳細に解析した。まず,同じ位置から出発し異なる方向をもつ多数のパッシブベクトルはある有限の時間の後には方向がそろってくる。このことから,パッシブベクトルの方向場が,周期流の時間位相と位置の関数として一意に定まることが示唆される。つぎに,空間に一様に分布させたパッシブベクトルが,時間の経過とともにその方向が空間的にどのように再配列するかを調べた。流れ場を多数の小さな立方体に区切り,各立方体に入ったパッシブベクトルの方向分布の統計を求めた。パッシブベクトルの方向がそろわず面内に分布する箱が多数見られた。このようなは混合が盛んに起こっていると考えられる。クエット乱流では、流れ方向渦とそれに誘導されて作られるイジェクション領域とスィープ領域が主たる組織構造であるが、パッシブベクトルの線状分布は流れ方向渦の内部と壁面近傍のイジェクション領域に現れ,一方,面状分布は流れ方向渦の周辺とスイープ領域に現れる。このような,パッシブペクトルの方向分布と流れ構造との対応関係は,パッシブベクトルの近過去に依存することがわかった。これは,パッシブベクトルが乱流の特性時間程度で過去の記憶を喪失することを示すもので,乱流混合の機構の考察やモデルの構築において本質的で重要な特性である。
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