本研究はレーザー冷却およびボース・アインシュタイン凝縮によって得られる極低温原子をコヒーレントな物質波として操作する原子光学の基礎技術を確立し、光と同様に物質波の波動性および量子力学的な性質を追求する量子原子光学の基礎を築くことを目的としたものである。本研究ではますコヒーレント物質波源としてアトムチップを用いたRb原子のボース凝縮体(BEC)生成装置を開発し、これにより従来より一桁以上高速な3秒以下でBEC原子を生成することに成功した。次にこのアトムチップ上のBEC原子を用いて原子干渉計を実現し、相互作用時間50msで30%以上の高いコントラストの干渉信号が得られた。これによりBEC干渉計のコヒーレンス時間を大きく向上し、高感度な物理計測が実現可能であることを示した。また光定在波パルス中のボース凝縮原子において原子を特定の一方向にのみ加速する量子ラチェット効果を実演した。またこれが純粋に量子力学的な物質波の干渉効果によるもので、一種の原子干渉計が構成されていることが理論的な解析より明らかになった。またボース凝縮原子のようなマクロな数の原子による原子光学だけでなく原子1個1個を操作してその粒子性および波動性を制御する量子原子光学の研究を行うため、1個から数個のレーザー冷却Rb原子を光双極子トラップを用いて捕捉および操作する実験装置を開発した。今後この装置を用いてトラップ中の原子間の相互作用を制御することにより原子間の量子相関や非古典的な原子の量子状態を実現することが可能になるものと期待される。
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