研究概要 |
超流動液体ヘリウム中に散布された原子やイオンは液体ヘリウム中にバブルを作ってその中に閉じ籠もることが知られている。我々は,以前,超流動液体ヘリウム中に散布したマグネシウム原子の内部状態間遷移をレーザー励起による蛍光分光によって測定したところ,3s3p励起状態のマグネシウム原子は,バブルの中で単独で存在しているのではなく10個程度のヘリウム原子をその周りに纏った励起錯体を形成している可能性があるという結果を得ている。このようなことは,従来の常識では,マグネシウム原子のようなアルカリ土類原子では有り得ないこととされてきたため,興味深い。その後,蛍光スペクトルにおける液体ヘリウム-3および液体ヘリウム-4の圧力依存性の実験によってその傍証を得,さらに,超低温のヘリウム-4ガス中でのスペクトルの測定によって,より確実な証拠を得ている。本年度は,この励起錯体形成がヘリウム-3中でも起こることのより明確な証拠を掴むために,超低温のヘリウム-3ガス中でのマグネシウム原子のスペクトルの測定をおこなった。実験は,あいにく,マグネシウム原子を散布するために必要なYAGレーザーの故障によって,測定のために十分な個数の原子を散布することが出来ず,ヘリウム-4の場合ほどの鮮明なスペクトルを得ることは出来なかったが,励起錯体を形成しているときに特有なスペクトルが得られた。その結果,マグネシウム原子はヘリウム-4のみならずヘリウム-3も身に纏って励起錯体を形成するという事実のより明確な証拠を得ることが出来た。なお,非線形分光法によるロトンの直接観測も試みたが,主としてガラスセルによる強い迷光のため,成功には至らなかった。このことから,この目的のためにはクライオスタットの更なる改良が必要であることが分かった。
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