研究概要 |
本年度は,彗星表面における高速度衝突にともなう温度上昇を定量的に見積もるための衝突残留温度計測実験と彗星構成物質である雪の力学強度の焼結時間依存性を調べるための変形実験を行った.さらに,彗星及び小氷天体の衝突による生存条件を明らかにするために雪の衝突破壊実験を行い,衝突破壊条件の焼結度依存性を調べた.氷-氷衝突による衝突残留熱に関する実験では,赤外線ビデオカメラによる観察で,衝突速度300m/sまでは衝突点付近における温度上昇が観察された.この温度上昇は弾丸が付着した付近を中心に広がっていた.各衝突において観察された温度上昇の最大値は,衝突速度とともに2Kから9Kまで増加した.この温度上昇の最大値と弾丸の運動エネルギーの関係を調べたところ,温度上昇は運動エネルギーのほぼ0.4乗に比例することがわかった.一方,この加熱された衝突クレーターは時間とともに熱伝導により冷やされ,その温度は降下した.この温度変化から,クレーター孔に蓄積された衝突残留熱を見積もり,弾丸の運動エネルギーがどの程度衝突残留熱に変換したかを計算した.その結果,弾丸の運動エネルギーの1%-10%が衝突残留熱に分配されることがわかった.一方,空隙率40%の雪の力学強度は焼結時間の約0.2乗で増加することがわかった.さらに直径60mmの雪球に対して雪・氷の弾丸速度が30〜450m/sにおいて衝突破壊実験を行ったところ,衝突破壊条件の焼結時間依存性が明らかになった.-15℃での実験では空隙率40%の雪の衝突破壊強度は時間のほぼ0.2乗で増加することがわかった.こめべき指数は,変形実験から得られた力学強度のベキ指数と一致している.このベキ指数の一致から,衝突点における衝撃圧の上昇やその伝播は焼結によりほとんど影響を受けないことが推測される.焼結では,物質強度のみが変化し,その結果,衝突破壊条件に影響を与えると思われる.
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